公益社団法人日本ボクシング連盟 組織運営に関する基本計画
Ⅰ はじめに
1 日本ボクシング連盟(以下、「JABF」という。)は、1926年に設立(設立当初は、「全日本アマチュア拳闘連盟」と称す。)された日本唯一のアマチュアボクシングを統括する組織である。2026年7月には創設100周年を迎える。
幾多の変遷を経て、2023年3月3日、内閣府より公益社団法人としての認定を受け、公益社団法人日本ボクシング連盟として、新たなスタートを切ることとなった。
この間、2002年には女子大会の開催、2011年にはプロ経験者のアマチュア復帰を認める規定を制定し、さらには2012年には、中学生以下の全国大会を開催し、ボクシングの普及に努めてきたが、一方では、2018年には、社会問題に発展した騒動により、日本オリンピック委員会(JOC)や日本スポーツ協会(JSPO、当時は日本体育協会)から処分をうけるという苦渋を経験した。
そのような中、2024年6月23日は、第14代会長に仲間達也が就任し、連盟の更なる体質改善と強化を目指すこととなった。
2 スポーツ庁はスポーツに係わる不祥事の社会問題化を背景に、スポーツ団体の組織運営面でのガバナンス、コンプライアンスの強化への取り組みを開始し、2019年6月、スポーツ団体ガバナンスコードを策定した。そして、中央競技団体(NF)向けガバナンスコードは、「NFは、その業務運営が大きな社会的影響力を有するとともに、国民・社会に対しても適切な説明責任を果たしていくことが求められる公共性の高い団体として、特に高いレベルのガバナンスの確保が求められている」とした。
3 ガバナンスコードよりNF は13原則43 審査項目に対する対応(適正化)を求められ、そこでは「組織運営等に関する基本計画を策定し公表すべき」とされた。
4 JABFは、この間、ガバナンスコード適合に向けて、2022年10月30日に加盟団体規程を制定、2023年6月には、危機管理規程を制定し、2023年10月には、危機管理マニュアルを制定した。また、2024年7月17日には、強化委員会規則を制定し、公平・公正・安全の推進に努めてきた。
5 このたび、JABFは、2028年のロサンゼルス・オリンピックに向けて、今後4年間の基本方針を策定する。
Ⅱ 理念および基本方針
【理念】
ボクシングを通じ
全人類の健康と幸福に寄与し
多様性と協調性を育みながら、世界平和に貢献する
全世界のボクシングを愛する人たちと協働して
ボクシングのすばらしさを伝える
【ビジョン】
・すべての人の豊かなスポーツライフに寄与します
・国内外の人々や組織と協力し、ボクシングの発展に尽力します
・オリンピックにおいてメダリストを輩出し、夢と感動を届けます
・健全で安定した連盟運営を行います
・公正で差別がなく、ジェンダー平等に基づき、誰もが活躍できる組織を目指します
Ⅲ JABFの組織運営について
執行部体制の明確化による運営
ガバナンス、コンプライアンス重視
加盟団体、ブロック連盟からの意見聴取
審判部の独立性を担保
強化委員会・強化スタッフの行動規範の明確化
暴力・ハラスメントの根絶化
- JABFの組織運営に際しては、上記の項目について最新の注意を払い運営を強化する。
理事会審議事項以外の日常業務においては、執行部(業務執行理事および同補佐担当理事)が積極的に意見交換を行い、それぞれの役割分担に従い、業務運営を行う。
また、さらなるガバナンス構築を最重点目標として、併せてコンプライアンス遵守の姿勢を堅持する。
さらに、加盟団体、ブロック連盟からの意見に真摯に耳を傾けて、対話重視のスタンスをとることで、風通しの良い組織運営を進めていく。
専門部・専門委員会に関しては、審判部の独立性を担保しながら、審判部の審判技術向上を支援する。
強化委員会については、強化スタッフにおける役割の分担化とともに、執行部との連携により、効率的な強化を実現する。
とりわけ、選手と指導者の関係性においては、「強化委員会・強化スタッフの行動規範」を制定し、選手と指導者間のトラブルおよび暴力・ハラスメントの根絶化に取り組むこととする。
Ⅳ 具体的活動施策
1 マスボクシングを軸に据えた普及活動の推進
アマチュアボクシングの登録競技人口は約5000人と多くはない。しかし、ボクシングの潜在的競技人口は少なくはないと考えている。老若男女問わず、フィットネスのためにボクシングジムに通う人は増えている。フィットネス感覚でボクシングに取り組んでいる方たちを増やしていきたい。
JABFが2021年より取り組んでいる「マスボクシング」競技は、競技ボクシングへの参入障壁を下げる鍵と考える。マスボクシングとは、寸止めのボクシングであるが、ボクシングというスポーツの魅力をそのままに、より多くの方々にこの競技に参加してもらい、楽しんでいただくために、全国大会も開催している状況である。大きな可能性を持つこの競技の参加者を加速度的に増やしていけるように、昨年より、マスボクシング強化・普及委員会を設置し、積極的な普及・啓発活動を行っていく。
次に、JABFの広報戦略委員会は各種マスメディアの現場で勤務している者達が所属している。アマチュアボクシングのトップ選手の場合、プロボクシングに劣らない力量を備えているものの、マスメディアへの露出が控えめである。普及委員会の尽力により少しずつ露出や取り上げられ方が増えていっているので選手や関係者の協力を得る形でますます、普及を進めていきたい。
2 女子競技者の増加
2024年パリオリンピックは史上初めての参加選手数が男女同数になり、男子選手と同数の5250人の女子選手がパリで活躍することとなった。今後、世界的に女子スポーツへの注目度が増していくことは確実である。我がボクシング競技の女子選手団は、パリオリンピックへの切符を獲得することはできなかったが、今回惜しくもParis2024出場を逃した選手たちも、世界選手権やアジア選手権で素晴らしい成績を示している。しかしながら、現在、女子選手の登録者数は約650名と全体の15%弱で決して層が厚いとは言えない。今後、オリンピックで確実かつ、しっかりとした結果を残すためには女子選手の競技人口を増加させ、層を厚くすることは必須である。 そのための取り組みとして、公開競技として一部階級でのインターハイ開催など、女子選手の活躍の場を確保していく。
3 責任者を明確にした、継続性のある強化体制の構築
NFにおける重要な仕事である強化活動をどのように行っていくかに関しては、大きな課題である。本年度役員改選に於いて会長が変わり新体制における改革を見据えて、本年度より、理事2期目を迎える須佐勝明氏を強化事業のトップである「ハイパフォーマンスディレクター」に据えた。須佐理事には、強化の責任者として大胆な改革を行っていただき。パリオリンピック終了後より、次期オリンピックを見据えた中長期計画を遂行できる体制を作っていく。
4 オリンピック競技であり続けるための国際社会の中における貢献
国際的な情報収集、コミュニケーションは、NF運営にとって最重要課題である。2018年〜現在までの6年間で、複数回の国際コーチ試験、国際審判試験を国内大会において開催し、国際コーチと国際審判員の数は3倍に増加した。国際コーチや審判が多く誕生することで、国際大会で通用する、すなわち「勝てる」スタイルを理解した強化活動を行える。これは、IFである国際ボクシング協会(IBA)と良好にコミュニケーションをとってきた結果である。
しかしながら、現在ボクシング競技は非常に難しい政治的局面に瀕している。IBAが国際オリンピック委員会(IOC)からの資格停止処分を受けたことにより、現状このままではパリの次、ロサンゼルス・オリンピックではボクシング競技は開催されない。この状況を打開するためにオランダやアメリカなどを中心にして、新たなIFを目指す団体として、World Boxingという団体が立ち上がり、10月末というIOCの期限を目指して最低50カ国の加盟を獲得すべく働きかけている。JABFもWB加盟に舵を切ることになった。IBAとの関係性においては、非常にひっぱくした、最大の運営課題である。
もちろん我々としても、IBAの問題点に手をこまねいて見ていただけではなく、競技の中核である「判定」を透明化させるために、新判定システムを提案した。
そういった意味でも、IBAの資格停止処分は非常に残念なことだと受け止めている。その中で我々が何をすべきか。我々の活動の主軸は常に、全てのボクサー、全てのボクシングファン、そして全てのボクシング関係者のために、最良の選択をしていくことである。そのためにWB加盟を実現した。しかしながら問題は複雑に絡み合っており、情報の収集と十分な話し合いが必要となっている。今後も、ボクシングがオリンピック競技であり続けるために、最大限の努力を行なって行く。
Ⅴ 4年間の最終到達目標
ロサンゼルス・オリンピックでのメダル獲得
金メダル 2
Ⅵ 具体的強化施策
1 男子強化中長期計画
育成・強化のためのアスリートパスウェイ
<JAPAN BOXING FEDERATION
ATHLETE DEVELOPMENT PATHWAY>
F(Foundation)土台となる遊び・動作・スポーツ
F1 ボクシングを体験し、基本動作を習得する
F2 基本動作の反復とマスボクシングを経験する
F3 技術力が増し、競技性が高まる
T(Talent)スポーツタレントの顕在化及び実績
T1 ジュニアで優勝する
T2 ユースで優勝する
T3 ジュニア・ユースの日本代表となり国際大会で入賞する
T4 ジュニア・ユースの日本代表となり国際大会でメダルを獲得する
E(Elite)国際競技大会での成功
E1 日本代表となり、国際大会で入賞及びメダルを獲得する
E2 各種国際大会(アジア選手権大会・アジア競技大会)で入賞及びメダルを獲得する
E3 世界選手権大会・オリンピックで入賞及びメダルを獲得する
M(Mastery)国際競技大会での持続的な成功
継続的にメダルを獲得する
(アジア選手権大会・アジア競技大会・世界選手権大会・オリンピック等の主要大会)
2 女子中長期計画
育成・強化のためのアスリートパスウェイ
Foundation土台となる遊び・動作・スポーツ
F1 マスボクシングを追求するか実戦競技に移行するか競技を選択する
F2 小学校1年から参加できるマスボクシング大会への参加
F3 一流選手とともに体験する
F4 遊びを取り入れて楽しむ
Talentスポーツタレントの顕在化及び実績
T1 ジュニアの国際大会でメダル獲得
T2 ジュニア世代から積極的に海外に出るようにし、国際舞台での活躍を身近な目標として意識させる
T3 フィジカルトレーニングの重要性と方法をジュニア世代から浸透させていく
T4 ボクシングの実戦競技ができるようになる小学校5年生からの選手発掘を活発にする(マスボクシング大会出場選手も含め)
Elite国際競技大会での成功
E1 アジア大会、オリンピックメダル獲得
E2 世界選手権メダル獲得
E3 世界選手権ベスト8入り
Mastery国際競技大会での持続的な成功
世界選手権、アジア大会、オリンピックでのメダル獲得の常連国となる
3 戦略課題
国内での強化合宿は勿論のこと、国外での合宿を実施する。強豪国に比べ圧倒的に経験の浅い日本選手にとって、試合での成果のみならず、国外で外国選手と手合わせすることや、実戦練習を行うことが有益であるが強化を目指すところであるが、派遣費の捻出が厳しい状態となっている。
4 課題解決のための戦略及び実行計画
経験の浅い日本人選手達に国際舞台を多く経験させる。その経験から、外国選手より劣る部分を認識させる。多くの選手はフィジカル面において外国選手より劣る。コンディショニングと共に強くバランスの取れた体が必要となる。その上で、国際舞台の経験から、様々な場面を想定した3分3ラウンドを戦い抜ける戦略を練り、確立させていくことが必要となる。
以上より国外での合宿は非常に重要なトレーニングとなる。国外での合宿を年に1~2回経験させたい。国内での合宿では得ることのできない経験を活かし、国際大会に繋げたい。そうすることにより、国際大会での位置(レベル・順位)や、各国の選手の情報収集も含め行える。そして、アジア選手権大会や世界選手権大会、アジア競技大会といったオリンピックに繋がる大会での成果に繋げられるように多くの機会を作り派遣できるようにしていきたい。
5 計画・実施・検証・見直しのプロセス
JABFの場合、ジュニア・ユース世代の選手の活躍に比べエリート世代の活躍が十分に発揮されていない部分がある。上記の通り強化策としてできることは見据えられている状況であるので、大きな大会ごと・年度ごとに検証・見直しを繰り返すプロセスを行っていく。
Ⅶ 組織運営の強化策
1 事務局の充実について
JABFにおいては、事務局の強化が喫緊の課題である。
まず、現在、事務局長が不在の中、週のうち全日勤務が難しい状況の事務局長代行を中心になんとかやりくりをしている状況である。事務作業に全く余裕のない中、残業時間を抱えながらもパート事務スタッフを含めて、計8名の事務スタッフで運営している状態である。
このうち、事務局長代行においては、全日勤務への移行を実現し、正式に事務局長として昇格させること。また、基本、会費収入で運営している状況になんとかスポンサーを獲得しながら事務局スタッフの増員を実現していくこと、等が喫緊の課題である。
5年後を目標にさらなる補助金獲得およびスポンサーの獲得により、事務局スタッフの昇給や、執行部役員の報酬支払を実現できるよう運営努力を重ねていきたい。
さらに執行部役員の継続的人材確保については、加盟団体、地方ブロック連盟から優秀な若手人材を登用し、まず、専門部・専門委員会で委員を経験し実績を積みながら、とりわけ優秀な人材はさらに理事への登用を実現していきたい。
2 理事会運営の充実について
JABFの理事については、旧来からのいわゆる名誉職としての就任という側面から脱却し、実務者の登用というような実践的な理事会運営を模索したい。
そのための施策の一環として、令和6年12月16日(月)には、理事、事務局スタッフを対象として、コンプライアンス研修を中京大学石堂教授(JABFコンプライアンス委員会委員長)に講師をお願いして実施する運びとなった。
2 財政基盤の強化について
財政基盤の強化は、どのNFにおいても、大きな課題となっている。
JABFにおいても、それは例外ではない。
JABFの収入については、少子化の中、会員の増加による会費収入の増を見込むことは、難しい状況である。
しかしながら、令和6年度で4年目の全国大会を迎えたマスボクシング選手権は、毎年、参加者の増加が実現できており、今後も更なる競技人口の増加が見込まれる。
とりわけ、40代、50代、60代、70代の競技人口が増加しており、さらなる競技選手獲得のために、マスボクシング普及・強化委員会がその一役を担っている。こちらは生涯スポーツとしての定着を模索したい。その施策の一つとして、「マスボクシング」という名称もフレンドリーかつイノベイティブな名称への変更も検討していきたい。
マスボクシング選手の登録人数は、令和3年度が137人、令和4年度が321人、令和5年度が481人、令和6年度で580人ではあるが、令和12年頃には、約5倍の3,000人の獲得を目指したい。
一方で、補助金増も実現していきたい。一つには、ガバナンスコードの全項目達成を実現することにより、補助金のカット額を減らし、各関係団体からの補助金についても遺漏なく申請しながら、収入増を実現していきたい。
最後に、さらなるスポンサーの獲得についても、令和12年頃には、約10社の公式スポンサー獲得を目指したい。
以上の施策により、収入規模を現在の1億8千7百万円から令和12年頃には2億円への収入増加を実現していきたい。
Ⅷ その他
1 プロボクシングとの連携の必要性
日本のプロボクシング界は、井上尚弥選手を筆頭として、多くの有名チャンピオンを輩出し、活況を呈している。それは、プロボクシング関係者の努力の賜物であることは言うまでもないが、その世界チャンピオンの多くがアマチュアエリートでもある。
今後、JABFはプロボクシング界との連携を模索し、日本ボクシング界全体のさらなる発展に寄与できる余地がまだまだあると考えられる。可能な限りの連携を模索していきたい。
以上